タイにおける人身売買と貧困の実態

タイにおける人身売買と貧困の実態タイ

 

2016年2月3日21時、テレビ東京の「水曜エンタ 今 知っておきたい 世界のキケン地帯に住む人々」にてタイの人身売買が取り上げられた。元AKB高橋みなみが実際に売られた経験を持つタイ人女性に接触し、日本でも大きな反響となった。

 

日本を含め、先進国のこうしたメディアでは「親に売られて売春させられている可哀相な女性」という部分だけがピックアップされてしまう。結果として「児童買春をする先進国の大人が悪い」「子供を売るなんて信じられない親だ」「タイは怖い国」といったメッセージを送るだけで終わる。当然、これだけでは問題の解決にもならない。

 

メディアの伝え方が悪いせいか、日本ではこうしたタイにおける人身売買の実態、それが起こる背景を知らない人は多い。

 

この記事では

▶ タイの女性が風俗で働く理由
▶ 人身売買が起こるの背景

から

▶ タイの人身売買はどうすれば少なくなるのか?

までメディアが報じない人身売買が行われる事情を中心に詳しく述べていきたいと思う。

 

タイの女性が風俗で働く理由

タイにおける人身売買の実態
人気観光地「パタヤ」にある置屋バー

 

お金が何よりも重要視されるタイでは、夜の店で働く女性のほとんどが自分の意志で入っている。バンコクなどの比較的裕福な家庭で育った女の子でも、個人売春(日本では援助交際とも言う)や風俗店で働き始めるのは珍しくない。

タイの女性が夜の世界に入るきっかけと夜の世界に入った後の話
tenleytimes.wordpress.com タイへ1度でも行った事のある人はその夜の世界に圧倒されるだろう。働く女性の多さにも驚くはずだ。こうした繁華街はタイの首都バンコクやプーケット、パタヤなどの...

こうしたお店で働いている女性がすべて、自分の意思に反して無理やり働かされているというのはあり得ない話である。実際、自由に店を辞めたり、移ったりしている。

 

タイの観光地バンコクやパタヤ、プーケットにある「夜の店」では貧しい地方から出てきている女の子も多い。こうした女の子の中に、かなり若い頃から夜の仕事に就いている子もいる。

性風俗の仕事では専門的な知識、学歴やキャリアを求められない。にもかかららず、大きな金額を稼げる。タイの一般職では考えられないぐらいの額である。一般職と風俗業での給与差は日本以上に開いている。これが貧しい家庭で育った人はもちろん、比較的裕福な家庭に育った女性でも、身体を売ってお金を稼ごうとする人が出てくる理由だ。

バンコクでは同性愛者ではない男性もお金を稼ぐために身体を売っている。ゴーゴーボーイと呼ばれるバーでは半分以上がノンケと呼ばれる異性愛者である。

 

しかし、未成年の時から体を売ってお金を稼いでいる女性(もしくは男性)の場合、自分の意思でこの道に進むのは極めて稀である。ボーイフレンドに売春を強要されて働き始めた少女もいるだろう。しかし、多くのケースで実の親が親戚や斡旋業者を通して、風俗店、置屋に子供を売っている。

農村においては働き手として男の子の需要がある。しかし、ほとんどの斡旋業者が女の子を集めている。これは身体を売ることでより大きなお金を確実に稼げるからだ。親はお金のために我が子を売ることで、代わりに稼いでもらうのである。

 

タイの地方では100万円ぐらいあれば、1、2年は十分に暮らしていける。こうして売りに出される女の子の売上は数十万円以上、親の10倍以上になることも多々ある。親の同意の元で売られた場合、子供がその環境から逃げ出すケースも殆ど無い。家にも戻れず、逃げる場所がないからだ。

風俗業に従事し始めても初めから1人暮らしを始める子はおらず、新しい環境では同じ境遇の子たちと家族のように暮らしていく。そこで「ねーさん」や「ママさん」を見つけ、新しい家族ができる。身体を売る仕事に慣れる頃には生活水準も、親への仕送り額は上がり、昼間の職では満足な生活ができなくなってしまう。

売られた経験を持つ子でも、タイ人は両親を大切に扱う。家族からの仕送り要求には嫌々ながらにも応え続ける。親もしくは新たに生じた自分の金銭的な問題は常に付きまとい、大人になってからも、この環境から逃れられなくなってしまうのだ。

 

人身売買が起こる背景

人身売買が起こる背景
人身売買のためにタイへ運ばれていたミャンマー、バングラデシュ人(www.bbc.comより)

 

日本人の感覚で言えば、そういう仕事をやらされるのに子供を売るなんて信じられないと思うだろう。しかし、それは貧困の恐怖を知らない日本人から見た一方的な意見である。子を売る親からすると、考えられる選択肢の中でやむを得なく選択した場合が多い。もちろん、良心の無い親が子供を何のためらいもなく売りに出すケースも無いとは言わない。

 

日本で生活費や高額な買い物のためにお金を借りる場合、方法としては様々なプランが考えられる。一般的には銀行や消費者金融、クレジットカードも含めたローンが多いだろう。万が一返せなくなっても自己破産という手段があり、債務者も法律的にしっかり守られている。

タイではどうだろうか?

まずタイでは親戚や知り合いに頼むことから始める。タイでは「金を貸してほしい」と言ってる人が親戚に必ず1人はいる。貯金を持たない人は日本の比ではないぐらいに多く、膨大な家計債務は以前からタイで大きな社会問題になっている。

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親戚に金持ちがいれば、資産を親族で共有するのが当たり前だと思っている人も一部にはいる。資産の格差が身内ではあってはいけないとも考えている。したがって、日本人を含むお金のある外国人に嫁いだ人がいれば、実家や親戚への分配も求められるだろう。

親がお金に困っている場合、多くがギャンブルや家、車などのローンだ。また、息子の学費のために娘を稼がせようとする家庭もある。収入申告をしていなかったり、収入に見合わない額、返済計画を無視した金額がほしいため、まともな金融機関は利用できない。

 

何かしらの理由でお金に困っている人がいれば家族や親戚をはじめ、身内を大切にするタイ人の多くは、嫌々ながらも多少の金は渡す。それでも足りなければ、もちろん金融機関で借りることも検討する。こうした機関で借りることができなければ、地元のチンピラがやっているようなヤミ金にも手を出してしまう。

身内なら借金を返してもらえなくても諦める人は多いだろう。しかし、中には必ず返すように迫るのもいるし、ヤミ金であれば当然取り立てが始まる。

親戚内同士で揉めるレベルで終わればまだいい。取り立てのプロ、要はマフィアが入って来ると、債務を是が非でも回収するため、逃げられないように監禁されることもある。様々な選択肢を迫られ、もしそのマフィアが先進国へ国際的なネットワークを持っていれば臓器売買の強要も考えられるだろう。チンピラレベルになると状況は更に酷くなる。本人が臓器売買や強制労働を希望しても組織にネットワークがなければその道はない。

臓器を売るネットワークも無いし、強制労働を斡旋するルートもない。となると、女性なら置屋などの風俗店に売られる。このルートなら簡単に構築できるからだ。

男性なら債務者の足を切断して街中に放置し物乞いにさせるといった見せしめのようなこともさせられる。普通に資金の回収コストからすれば、このような方法を考えるはずがない。しかし、彼らはどんな方法を使っても、貸したお金を回収しようとする。

バンコク等都市部の観光地には、子供連れの女性や子供の他、体の一部を欠損した物乞いも多い

 

バンコクの繁華街を彷徨う片足のない物乞い。
バンコクの繁華街を彷徨う片足のない物乞い。男性の場合、健常者では貰える額が少なくなるため、強制的に障害者にさせられる。もちろん、事故や病気で障害を負い、自主的に路上での物乞いをしている人もいる。

 

警察に行けば楽だともわれるかもしれない。しかし、その考え方自体が現実を知らない日本人的な考えだ。こうした一連の行為は警察だけでなくタイ国軍も認識している。認識してるにもかかわらず、無くならないのは警察や軍はマフィアも賄賂を通して間接的に利益を得ているからだ。この場合、更に上の政府から圧力がなければ取り締まることもまずない。

政府の圧力があるのも国内外のメディアが騒いだ時ぐらいだ。したがって、人身売買に限らず、タイのFacebook等のソーシャルでは警察を動かすために様々な問題が提起されている。センセーショナルな写真や動画をFacebookへアップロードし、一般人は問題を大きく見せて取り扱ってもらおうと努力している。

ただ、タイ国内の人身売買は親とマフィアとの間で契約が成立してしまうと、問題が表面化する可能性も低くなる。どちらかと言えば、ミャンマー人やラオス人など国を跨いだ人身売買がメディアに取り上げられている。

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2015年、特に大きく取り上げられたのがタイの隣国ミャンマーのイスラム教系少数民族「ロビンギャ族」の人身売買だった。これにはタイ陸軍も関与していた。

 

身体を売る女性たちの中には近隣諸国の女性もおり、小さい頃タイへ売られて来た人もいる。 大人になればある程度は自由の身となり、親に仕送りを送ったり自分の生活のために働いている。しかし、自分の意思で始める子供はほぼいないだろう。

 

借金苦からの児童売買

強制労働や物乞いなりをして、本人が借金を返そうとするケースももちろんある。ただ、子供がいる場合は子供を売る話も出てくるはずだ。子供を売るルートは、臓器売買や強制労働など高度な組織でなくても持っているため、選択肢の1つとなることが多い。くわえて、借金を抱えた本人の負担は生じない。何を強要されるかわからない状況では、子供を売って逃げたくなる気持ちも理解できなくはないだろう。

 

発展途上国における金の貸し借りほど怖いものもない。行政や司法に頼れば必ずしも、問題が解決するわけではない。法律上はチャラになっても、発展途上国では慣例が重視される。法律上の債務から逃げれても、人間からは逃げれない。

あなたがもし彼らと同じ立場に立った時、子供を売るという選択肢を取らない自信はあるだろうか?それが最良の選択肢であると、納得してしまう可能性が高いだろう。

 

道端で幼い赤ちゃんと一緒に物乞いをする少女
道端で幼い赤ちゃんと一緒に物乞いをする少女( flickr.comより)

 

タイの人身売買はどうすれば少なくなるのか?

タイの人身売買はどうすれば少なくなるのか?
tenleytimes.wordpress.com

 

まず、人身売買を「完全に」無くすのは不可能である。日本を含めた先進国でも親の斡旋で児童売春が行われていたり、欧米においてもこうした事案は起こっている。個人が法律を破ることは止められない。しかし、慣例よりも法律で国民を縛り、社会保障を充実させ、お金の強さを少しでも弱められたなら今よりは少なくなるはずだ。

 

日本でもお金を借りる人は当然いる。借金が返せなくなる人は日本にも沢山いるだろう。だが、子供を売るなんて考えを持ってる親はほとんどいない。

また、タイでは法律で個人が守られず、慣例が重視されている。くわえて、お金によって警察や軍がコントロールされてしまうのも、問題解決の大きな障壁となっている。

発展途上国といった社会保障が満足に整っていない国では何よりもお金の力が強い。日本では様々なセーフティーネットがある。しかし、こうした国ではお金が無ければ落ちるところまで落ちてしまう。逆に、お金があれば幅広い自由が認められる世界でもある。警察や軍の腐敗は当然お金が絡んでのことだ。権力や力はあっても、彼らは現在の給与に満足していない。有り余る力をお金に変えているのである。

 

社会保障を充実させ、お金がなくとも死に直結するような環境は最低限無くさなければならないだろう。お金がなくとも生きられる社会になれば、お金の力も弱まる。

お金による「力」のコントロールに制限をかけない限り、タイにおける人身売買は一向に減らないだろう。

タイにおける売春・買春の違法性から実情までを詳しく述べていく
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